DNAナノテクノロジー
DNAは、生命システムに必要な遺伝情報を担う生体物質である一方で、塩基数という長さや構成する分子の配列を自由に設計できる生体高分子物質でもあります。DNAの4つの塩基、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)は、それぞれAとT、GとCという特定の塩基とのみ水素結合を形成し、Watson-Crick塩基対という二重らせん構造を形成します。ワトソン・クリック塩基対が既知の構造を形成することを利用して、ナノ構造体を設計、作製する手法を構造DNAナノテクノロジーと呼びます。
DNAオリガミは、構造DNAナノテクノロジーの代表的な技術の一つであり、サブナノスケールで様々な2次元および3次元のナノ構造体を精密に作製できることから、基礎研究のみならず応用開発の観点からも注目されています。DNAオリガミを用いると、本来親水性のDNAから作製されたDNAナノ構造体に、意図した位置への疎水基の導入によるDNAナノ構造体の両親媒性化が容易に可能になります。両親媒性化DNAナノ構造体は、油中の水滴の界面に集積してカプセルを形成し、水滴同士の融合を防ぐ安定剤として機能することがわかりました。また、DNAナノ構造体が形成したカプセルは、DNAナノ構造体中のナノポアがイオンチャネルとしてはたらくなど、細胞のような機能を発現しました [1,2]。
我々は、DNAオリガミを利用して、DNAナノ構造体に疎水基だけでなく、有機分子や酵素、金属ナノ粒子などをDNAを介して導入し、生体環境で使用できるDNAナノデバイスを開発しています。
1.D. Ishikawa, Y. Suzuki, C. Kurokawa, M. Ohara, M. Tsuchiya, M. Morita, M. Yanagisawa, M. Endo, R. Kawano, M. Takinoue, “DNA Origami Nanoplate-Based Emulsion with Nanopore Function”, Angew. Chem. Int. Ed., 58, 15299–15303 (2019).
2.D. Ishikawa, Y. Suzuki, C. Kurokawa, M. Ohara, M. Morita, M. Yanagisawa, R. Kawano, M. Endo, M. Takinoue, “Self-Assembled nanoplates at the water–oil interface”, MicroTAS 2016 conference (The 20th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences), Proceedings of MicroTAS, 116–117 (2016).