東京科学大学
生殖・発生

胚移植

胚移植

生殖補助医療技術により、本来なら妊娠が不可能な多くのカップルが妊娠できるようになりました。しかし、胚移植後の妊娠率の低さは深刻な問題として残されています。胚移植後の妊娠失敗の原因は、胚の質が悪い、子宮の受容性が低い、胚移植が有効でないなどです[1]。現在、それぞれの問題に対する解決策は以下の通りです。

第一の問題は、胚の質の悪さです。異常な核型や形態的な問題を持つ胚は、胚の質が悪いと言えます。この問題を解決するために,胚の培養技術やスクリーニング技術が開発されています[2,3]。

第二の問題は、子宮の受容性が低いということです。子宮に解剖学的あるいは免疫学的な問題がある場合、胚の着床に対する受容性は低くなります。この問題に対しては、手術や薬物療法が有効であると考えられています。

第三の問題は、ETが有効でないことについてです。胚を注入しても、着床に適した部位に届かなければ、ETは無効です。しかし、この第三の問題を解決するための対策はありません。

そこで、我々はマイクロロボット、カテーテル、誘導磁石からなる新しい体外受精システムを提案します。マイクロロボットは胚を搬送し、胚の着床位置を制御します[4]。

1.W. B. Schoolcraft, “Importance of embryo transfer technique in maximizing assisted reproductive outcomes” Fertility and Sterility, Vol.105, No.4, 2016.

2.P. R. Brezina, R. Anchan, W. G. Kearns, “Preimpantation genetic testing for aneuploidy: what technology should you use and what are differences?” J. Assit. Reprod. Genet., 33, 823-832, 2016.

3.A. Simon, N. Laufer, “Assessment and treatment of repeated implantation failure (RIF)” Assisted Reproduction Technologies, 29, 1227-1239, 2012.

4.S. Koseki, K. Kawamura, F. Inoue, K. Ikuta and M. Ikeuchi, "Magnetically Controlled Microrobot for Embryo Transfer in Assisted Reproductive Technology," 2019 20th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems & Eurosensors XXXIII (TRANSDUCERS & EUROSENSORS XXXIII), 2019, pp. 2217-2220, doi: 10.1109/TRANSDUCERS.2019.8808545.

光作動型セルソーティングアレイ

光作動型セルソーティングアレイ

セルソーターは、細胞を用いた生物学研究に広く用いられており、再生医療における細胞塊の大量採取や不妊治療における希少細胞の採取など、新たな医療分野への応用が期待されています。しかし、現在一般的に用いられているセルソーターであるFACSは、高速フローや蛍光染色による細胞への悪影響が懸念され、また時間的な観察に基づく細胞選別を行うことができないため、これらの用途には適していないとされています。

そこで本研究室では、光応答型マイクロウェルアレイを作成し、ウェル内で細胞を培養・観察し、光応答型マイクロバルブアレイでウェルをアドレスして操作することにより、低侵襲で時間観察に基づく細胞選別を可能とする新しいセルソーターを開発することを目的とする研究を行っています。

我々は光応答型マイクロウェルアレイの作製、より効率の良い光熱変換材料を用いた光応答型マイクロバルブの駆動、液体を用いたマイクロビーズのウェルへの回収実験などを行いました。その結果、直径0.15mmまでのマイクロバルブを備えた光応答性マイクロウェルアレイを作製し、高い観察性と再現性で光応答性マイクロバルブを駆動することに成功しました[1]。

1.A. Mifune, Y. Ezaki, D. Saito, K. Uto and M. Ikeuchi, "Image-Based Cell Sorting System Using Light-Actuated Microvalve Array," 2022 IEEE 35th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems Conference (MEMS), 2022, pp. 309-312, doi: 10.1109/MEMS51670.2022.9699838.

卵子および初期胚の健常性診断と
発生能力予測技術の開発

卵子および初期胚の健常性診断と発生能力予測技術の開発

卵巣で作られる卵子の大多数は受精のチャンスを得ることなく死滅し、受精できたとしても胚盤胞まで到達する細胞はごく僅かです。本研究では、「卵子の発生能力(運命)は何によって決まるのか?」「どのような特徴をもつ卵子・初期胚が発生できるのか?」という疑問に答えるべく、複雑な生命現象を分子レベルで理解しながら、健常で発生能力が高い卵子・初期胚の生物学的特徴の解明に取り組むとともに、細胞診断に有効なマーカーの同定とそれを用いた細胞診断技術の開発を目指しています。また、発生能力が不十分な細胞の活性化(レスキュー法)の確立にも挑戦しています。