界面メカノケミストリー
疎水性である空気と親水性である水の界面は、両親媒性の分子やナノ構造体を局在させることに適しています。界面に局在させた分子をバリアと呼ばれる壁で一軸方向に圧縮することで、ラングミュア膜と呼ばれる1分子の厚さをもつ分子薄膜を作製することができます。さらにこれを累積して得られる積層膜をLangmuir-Blodgett(LB)膜と呼び、層状構造をもつ材料や分子エレクトロニクスへの応用が期待されています。
また、人間が操作可能なマクロスケールの気水界面に分子ペンチと呼ばれる分子マシンを集積することで、バリアの圧縮と拡張というマクロな動作で分子マシンを力学的に操作することができます[1,2]。すなわち気水界面は、ナノサイズの分子の変形という本来人間の手では操作不可能な極微小なエネルギーによって引き起こされる変化を、人間の手の動きに近いマクロスケールな力学的な動作によって操ることを可能にし、ナノとマクロという巨大なスケール差をつなぐ「場」であるといえます。
我々は、気水界面を分子やナノ構造の力学的操作の場として利用し、力学的に応答するセンサーやチャネルなどのナノデバイスの構造変化や機能発現を目指しています。
1.D. Ishikawa, T. Mori, Y. Yonamine, W. Nakanishi, D. L. Cheung, J. P. Hill, K. Ariga, “Mechanochemical Tuning of the Binaphthyl Conformation at the Air-Water Interface”, Angew. Chem. Int. Ed., 54, 8988–8991 (2015). DOI: 10.1002/anie.201503363
2.T. Mori, D. Ishikawa, Y. Yonamine, Y. Fujii, J. P. Hill, K. Ariga, W. Nakanishi, “Mechanically Induced Opening-Closing Movements of Binaphthyl Molecular Pliers: Digital Phase Transition v.s. Continuous Conformational Change”, ChemPhysChem, 18, 1470–1477 (2017). DOI: 10.1002/cphc.201601144